
業務委託契約書の書き方ガイド
業務委託契約書は 「企業がフリーランスや外部事業者に業務を委託する際の契約書」です。労働基準法の適用がない代わりに、契約書の条項がそのまま当事者間のルールとなるため、請負・準委任の区別、知的財産権の帰属、報酬支払時期、解除条件を明確に定める必要があります。
2024年11月にフリーランス保護新法が施行され、2026年1月には解釈ガイドラインが改正されました。発注事業者は書面明示義務(3条)・60日以内の支払義務(4条)・禁止行為(5条)を守る必要があります。違反すると公正取引委員会の勧告(8条)→命令(9条)と進み、命令に違反した場合に50万円以下の罰金(24条1項1号)が科されます。
請負・準委任・委任の違い(テーブル比較)
業務委託契約は法律上「請負契約」「準委任契約」「委任契約」のいずれかに分類されます。 民法632条・643条・656条 に基づき、業務の性質に応じて使い分けます。
| 項目 | 請負契約(民法632条) | 準委任契約(民法656条) | 委任契約(民法643条) |
|---|---|---|---|
| 対象 | 仕事の完成 | 事務処理の遂行(法律行為以外) | 法律行為の委託 |
| 報酬発生条件 | 成果物完成時(完成義務あり) | 業務遂行(工数)に応じて | 事務処理の遂行 |
| 瑕疵担保責任 (契約不適合責任) | あり(民法636条) | なし(善管注意義務のみ) | なし(善管注意義務のみ) |
| 典型例 | ソフトウェア開発・建築・Webサイト制作 | SES・コンサル・顧問契約・運用保守 | 弁護士・税理士への業務委託 |
| 解除 | 注文者は損害賠償して解除可(民法641条) | 各当事者いつでも解除可(民法651条) | 各当事者いつでも解除可(民法651条) |
| 印紙税 | 課税文書(2号文書・200円〜60万円) | 原則非課税(継続基本契約は7号・4,000円) | 原則非課税 |
フリーランス保護新法(2024年11月施行)の対応ポイント
2024年11月1日施行の 公正取引委員会 フリーランス新法(取引適正化に向けた取組) により、フリーランスへの委託取引には新たなルールが適用されています。本テンプレートには3条の明示事項を書き込む欄が揃っています(下表の対応を参照)。ただし支払期日は自社の締め支払サイクルを記入する欄なので、受領日から60日以内に収まるかは記入時に必ず確認してください。
- 書面による契約条件の明示義務(3条): 業務内容・報酬額・支払期日を書面(または電子媒体)で交付。口約束のみは違法
- 報酬の支払期日(4条): 物品・役務の提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払い
- 禁止行為(5条): 受領拒否・報酬の減額・返品・買い叩き・購入利用強制・経済上の利益の提供要請・不当な経済給付要請・一方的な契約変更
- 募集情報の的確な表示(12条): 募集情報は虚偽・誤解を招く表示を禁止
- 育児・介護への配慮義務(13条): 6ヶ月以上の継続的取引の場合、申出に応じて配慮
- 解除予告(16条): 6ヶ月以上の継続契約を中途解除する場合は30日前までに予告義務
3条の明示事項が、配布しているテンプレートのどこに当たるかは次のとおりです。
| 3条の明示事項 | テンプレートの該当箇所 |
|---|---|
| 給付の内容(業務内容) | 第2条(業務内容)+別紙1 業務仕様書 |
| 報酬の額 | 第4条(委託料)+別紙2 料金表 |
| 支払期日 | 第5条(支払方法)※受領日から60日以内に収まるか要確認 |
| 発注事業者・特定受託事業者の名称 | 冒頭の当事者表示および末尾の署名欄 |
| 業務委託をした日 | 末尾の契約締結日 |
インボイス制度対応の必須項目
2023年10月1日に開始された インボイス制度(国税庁) では、適格請求書(インボイス)の保存が仕入税額控除の要件となりました。業務委託契約書には以下を明記しておくと請求書発行時のトラブルを回避できます。
- 適格請求書発行事業者の登録番号: T+13桁(例: T1234567890123)。未登録の場合はその旨を明記
- 消費税の取扱い: 内税/外税の明記・税率(10%/軽減8%)の記載
- 免税事業者の経過措置(令和8年度税制改正後): 2026年9月までは80%控除、2026年10月〜2028年9月は70%、2028年10月〜2030年9月は50%、2030年10月〜2031年9月は30%、2031年10月以降は0%。負担調整の方法を契約書で明確化
- 請求書の記載要件: 登録番号・取引年月日・取引内容(軽減税率対象品目はその旨)・税率ごとに区分した対価の額・税率ごとの消費税額
業務委託契約書のチェックリスト(必須9項目)
- □ 業務内容・成果物の定義: 仕様・納期・検収条件・検収期間(通常7〜14日)
- □ 報酬額・支払時期: 60日以内の支払日・銀行振込手数料の負担者を明記
- □ 適格請求書発行事業者の登録番号: 受注者の登録状況を確認・契約書に記載
- □ 知的財産権の帰属: 著作権譲渡 or ライセンス・著作者人格権不行使条項の有無
- □ 秘密保持義務: 範囲・期間(契約終了後3〜5年が一般的)・違反時の損害賠償
- □ 再委託の可否: 全面禁止/事前書面承諾制/自由再委託の選択
- □ 解除条件: 債務不履行解除・期間途中解除の予告期間(30日前等)
- □ 損害賠償の上限: 委託料相当額・直接損害のみ等の制限を明記(受注者保護)
- □ 反社会的勢力の排除条項・準拠法・裁判管轄: 標準的な必須条項
競業避止義務は、この9項目には入れていません。どの案件にも要るものではなく、受注者が他の発注者から仕事を受ける機会をそのまま制限する条項だからです。本ページで配布している業務委託契約書(一般委託版・準委任版・請負版)にも競業避止条項は入れていません。ただし業種特化版(IT・介護・飲食)には、その業種で顧客・利用者の引き抜きを防ぐための条項が入っています(条番号と範囲 → 業種特化版には競業避止・勧誘禁止の条項が入っています)。入れるかどうかを検討する場合は → 競業避止義務を入れる場合に気をつけること をご覧ください。
取適法(中小受託取引適正化法・旧下請法)との関係(資本金・従業員数別の適用判定)
いわゆる「下請法」は2026年1月1日施行の改正で「取適法(中小受託取引適正化法)」へ改称され、あわせて「親事業者」→委託事業者、「下請事業者」→中小受託事業者と呼称が変わりました。資本金基準を満たす委託事業者がフリーランス(個人)や小規模事業者に製造委託等を行う場合に適用されます( 公正取引委員会 取適法の概要 )。
2026年1月からは資本金基準に加え従業員数基準でも適用されます。製造委託等は常時使用する従業員300人超、情報成果物作成・役務提供委託は100人超が基準です( 中小受託取引適正化法 第2条(e-Gov法令検索) )。取適法とフリーランス新法は別の法律であり、優先劣後の関係にはありません。取引が双方の要件を満たす場合は、両方の義務を遵守する必要があります。
| 取引類型 | 委託事業者の資本金 | 中小受託事業者の資本金 | 取適法の適用 |
|---|---|---|---|
| 情報成果物作成・ 役務提供委託(プログラム除く) | 5,000万円超 | 5,000万円以下(個人含む) | あり |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 1,000万円以下(個人含む) | あり | |
| 製造委託・修理委託・ プログラム作成 | 3億円超 | 3億円以下(個人含む) | あり |
| 1,000万円超〜3億円以下 | 1,000万円以下(個人含む) | あり |
取適法の適用時は、取引条件の明示(書面または電磁的方法・第4条)/受領日から60日以内の支払(第3条)/遅延利息 年14.6%(第6条・令和7年公正取引委員会規則第9号)/11類型の禁止行為(受領拒否・買いたたき・不当な減額・協議に応じない一方的な代金決定等・第5条)が義務づけられます。違反時は公取委による勧告・社名公表のリスクがあります。
業務委託契約書 vs 雇用契約書(偽装請負問題)
形式上は業務委託契約だが、実態は雇用と変わらない(指揮命令・時間拘束・場所拘束あり)「偽装請負」は違法です。実態が雇用なら、労働基準法の保護対象(残業代・有給休暇・社会保険・解雇規制等)になります。
| 項目 | 業務委託(合法) | 偽装請負(違法) |
|---|---|---|
| 指揮命令 | なし(業務遂行は自由裁量) | あり(上司から指示) |
| 勤務時間 | 自由 | 9時〜18時拘束等 |
| 勤務場所 | 自由(在宅・自社オフィス可) | 指定オフィス常駐 |
| 報酬 | 成果物・業務遂行に対する対価 | 時給・月給制 |
偽装請負疑いがある場合は残業代計算
実態が雇用なら、過去3年分の残業代を請求できます。タイムカード・業務メールから時間を抽出して概算できます。
残業代を計算する必須記載事項
- 業務内容・成果物の定義(仕様・納期・検収条件)
- 報酬額・支払時期(60日以内・銀行振込手数料の負担)
- 適格請求書発行事業者の登録番号(インボイス制度対応)
- 知的財産権の帰属(著作権・特許権の譲渡 or ライセンス)
- 秘密保持義務(NDA を別途締結する場合は本契約内に簡易版)
- 再委託の可否(全面禁止/事前承諾制/自由)
- 解除条件(債務不履行・期間途中解除)
- 損害賠償(上限額の明記推奨・上限なしは受注者リスク大)
- 反社会的勢力の排除
- 準拠法・裁判管轄
フリーランス新法2026年1月改正・解釈ガイドライン対応
2025年10月1日に公正取引委員会・厚生労働省が「フリーランス新法の考え方(解釈ガイドライン)」を改正し、2026年1月1日から施行されました。令和7年度に1,552件の勧告・指導(勧告10件・指導1,542件/公正取引委員会 令和8年6月10日公表)が行われた実態を踏まえ、禁止行為の判断基準がさらに明確化されています。
書面明示が義務付けられている9項目(第3条対応)
フリーランス新法3条は、発注事業者がフリーランスに業務を委託する際に、給付の内容・報酬の額・支払期日その他の事項を書面または電子的方法で明示することを義務付けています(具体的な明示事項は公正取引委員会規則で以下の9項目が定められています)。本テンプレートは全項目に対応する記載箇所(記入欄または標準条項)を備えています。
対応箇所の条番号は一般委託版(全34条)のものです。準委任版(全34条)・請負版(全33条)は条番号が異なりますが、9項目はいずれも同じ考え方で対応しています。
| # | 明示が必要な事項 | テンプレート(一般委託版)での対応箇所 |
|---|---|---|
| ① | 給付の内容(業務の範囲・仕様) | 第2条「業務内容」+別紙1「業務仕様書」 |
| ② | 報酬の額(税込/税抜の別を明記) | 第4条「委託料」+別紙2「料金表」 |
| ③ | 支払期日 | 第5条「支払方法」(月末締・翌月末払。新法4条の60日以内に収まるよう確認) |
| ④ | 委託者の名称・氏名 | 冒頭「甲」+末尾【甲(委託者)】署名欄 |
| ⑤ | 受託者の名称・氏名 | 冒頭「乙」+末尾【乙(受託者)】署名欄 |
| ⑥ | 業務委託日 | 署名欄上部の契約締結日(「令和 年 月 日」欄) |
| ⑦ | 給付受領日または役務提供日・期間 | 第9条「成果物の納入」+別紙1「業務期間」 |
| ⑧ | 給付受領場所または役務提供場所 | 第9条「成果物の納入」(納入方法)+別紙1「業務遂行場所」 |
| ⑨ | 検査がある場合の検査完了日の定め方 | 第10条「検収」(検収期間は納入日から14日以内) |
2026年1月改正の主な変更点
- 禁止行為の事例追加: 「一方的な納期変更」「追加作業要求」が禁止行為(5条)の具体事例として明記された
- 電磁的方法による明示の例示拡充: メール・チャットツール・クラウドサービスでの明示が認められる要件が具体化された
- 報酬の減額の該当例明確化: フリーランスがインボイス未登録であることを理由とした消費税相当額の一方的な不払いは「報酬の減額」(第5条第1項第2号)の禁止行為に該当することが解釈ガイドラインに明記された
- 罰則の実運用開始: 令和7年度の措置件数は1,552件(勧告10件・指導1,542件/公正取引委員会 令和8年6月10日公表)。罰金(50万円以下)・社名公表の制度も動いている
詳細は → フリーランス新法完全ガイド(2026年最新) をご覧ください。
偽装請負のリスクと労働者性の判定基準
偽装請負とは、契約書上は「業務委託」としながら、実態は「雇用」と同等の指揮命令・時間拘束・場所拘束がある違法状態です。 職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)e-Gov法令検索 や労働者派遣法に違反することとなり、発注者側に行政処分・刑事罰のリスクがあります。
労働者性の判定基準(厚生労働省の考え方)
厚生労働省の「労働者性の判断基準」では、以下の要素を総合的に考慮して判断します。
| 判断要素 | 業務委託(労働者性なし) | 偽装請負(労働者性あり) |
|---|---|---|
| 指揮命令の有無 | 業務遂行方法は受託者が決定 | 発注者が業務内容・方法を指示 |
| 時間的拘束 | 勤務時間の定めなし | 始業・終業時間が指定されている |
| 場所的拘束 | 在宅・自社オフィス等、自由 | 特定のオフィスへの常駐を義務付け |
| 代替性 | 別の人員での対応可 | 本人でなければならない |
| 報酬形態 | 成果物・業務遂行に対する対価 | 時給・日給・月給制(労働時間比例) |
| 道具・機材 | 受託者が自前で用意 | 発注者が機材・ツールを提供 |
実態が雇用と認定されると、過去2〜3年分の残業代・有給休暇取得・社会保険加入・解雇予告手当を遡って請求される可能性があります。
知的財産権の帰属と著作権条項の書き方
業務委託契約において最もトラブルになりやすい箇所が知的財産権(著作権・特許権)の帰属です。デザイン・ソフトウェア・コンテンツなど成果物が生まれる案件では、必ず明記してください。
知的財産帰属パターン早見表
| パターン | 内容 | 発注者メリット | 受注者メリット | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 完全譲渡 | 著作権の全権利を発注者に移転 | 自由に改変・二次利用可 | なし(対価に含む) | 広告・Webサイト・ロゴ |
| ライセンス | 著作権は受注者に留保・利用許諾のみ | 指定用途での利用可 | 他クライアントへの再利用可 | 写真・イラスト・楽曲 |
| 共同帰属 | 発注者・受注者が共同で著作権保有 | 共同著作物として権利あり | 共同著作者として権利あり | 共同開発・研究 |
| 受注者留保 | 著作権は受注者が保持 | 合意した範囲のみ利用可 | ポートフォリオ等に活用可 | 副業・スタートアップ |
著作権条項で必ず確認すべき3点
- 著作権法27条・28条(翻訳権・翻案権)を含む旨の明記: これを書かないと翻訳・リメイク・続編制作の権利が移転しません(著作権法61条2項)
- 著作者人格権不行使特約: 著作権を譲渡しても著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は譲渡できないため、別途「行使しない」旨の特約が必要
- フリーランス新法との関係: 知的財産権の譲渡を求める場合はその対価を報酬に加算する必要があります(報酬の内訳として明記が望ましい)
特許権の帰属
受注者が業務委託中に発明した場合、特許権の帰属も契約書で明記が必要です。「本業務遂行中に生じた発明・考案の特許を受ける権利は委託者に帰属する」等の条項を入れてください。ただしフリーランスが業務と無関係に行った発明は対象外です。
秘密保持義務(NDA)の組み込み方と、競業避止義務を入れる場合の注意点
秘密保持義務(NDA)の基本構成
業務委託契約書内に秘密保持義務を組み込む場合(NDA兼用)、以下の要素を定義してください。別途 NDA(秘密保持契約書) を締結する場合でも、本契約と矛盾しないよう確認が必要です。
- 秘密情報の定義: 「書面でConfidentialと明示したもの」または「業務上知り得た一切の情報」など範囲を明確化
- 目的外使用禁止: 委託された業務以外への使用・第三者への開示を禁止
- 存続期間: 契約終了後3〜5年が一般的(技術情報は永続的な保護を求めることも)
- 例外事項: 公知情報・独自開発情報・法令による開示義務は例外として明記
- 情報の返還・廃棄: 契約終了時に秘密情報の媒体を返還または廃棄する義務
- 違反時の措置: 損害賠償(立証なしで請求できる違約金条項を設けることも有効)
競業避止義務を入れる場合に気をつけること
本ページで配布している業務委託契約書(一般委託版・準委任版・請負版)には、競業避止条項を入れていません。どの案件にも必要なものではなく、また必要な範囲が案件ごとに大きく変わるため、ひな形に既定で入れておくと「合理的に必要な範囲」を超えたまま使われかねないからです。入れる必要がある場合は、以下を踏まえて個別に条文を起案してください(内容に不安がある場合は弁護士への確認を推奨します)。
業種特化版(IT・介護・飲食)は例外で、その業種で顧客・利用者の引き抜きを防ぐための条項が入っています。条番号・期間・範囲は 業種特化版には競業避止・勧誘禁止の条項が入っています で確認してください。
業務委託の競業避止は、退職後の競業避止とは出発点が違う
公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「 フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日/令和8年1月1日改定) 」は、業務委託の文脈での競業避止義務を「発注事業者に対する役務等の提供に係る契約終了後に、フリーランスが自ら当該発注事業者と競合する事業を行わない又は当該発注事業者と競合する者に対して一定期間役務等の提供を行わないことを内容とする義務」と定義しています(同ガイドライン第3・1(11) の脚注)。発注者と受注者は雇用関係にないため、従業員の退職後の競業避止をめぐる労働事件の判断枠組みがそのまま当てはまるとは限りません。業務委託では、おおむね次の2つが判断の場になります。
- 契約内容そのものの有効性: 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とされます( 民法90条(公序良俗)e-Gov法令検索 )。制限が目的に対して過大なら、この点が争われます
- 発注者側の行為としての適否: 上記ガイドラインは、取引上の地位が受注者に優越している発注事業者が、一方的に合理的に必要な範囲を超えて競業避止義務・秘密保持義務・専属義務を課し、受注者が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となるとしています( 独占禁止法2条9項5号ハ・19条 e-Gov法令検索 )
同じガイドラインは、「合理的に必要な範囲でこれらの義務を設定することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない」とも書いています。つまり、競業避止条項を入れること自体が否定されているわけではなく、範囲と決め方が見られます。なお、公正取引委員会が問題となり得る例として挙げているのは、育成に要した費用を回収し終わったのに費用回収を理由として一方的に競業避止義務・専属義務を設定する、報酬が著しく低いのに長期間一方的に自社向けの業務に専念させる、といったケースです。
「合理的に必要な範囲」を超えていないかを見るときの要素
上記ガイドラインは、合理的に必要な範囲を超えるかどうかを次の要素を勘案して総合的に判断するとしています(同ガイドライン第3・1(11) の脚注)。特定の年数や地域を「ここまでなら有効」と定めたものではないため、何年までなら安全と言い切れる基準はありません。
| ガイドラインが挙げる勘案要素 | 契約書で具体的に決めておくこと |
|---|---|
| 義務の内容や期間が目的に照らして過大でないか | 期間(契約終了後◯ヶ月)と、禁止する対象業務を、守りたい情報・顧客に届く範囲まで絞って特定する |
| 受注者に与える不利益の内容 | 地域・取引先の範囲。「同業他社との一切の取引を禁止」のような包括表現は、受注者の仕事そのものを止めてしまう |
| 補償金等の有無やその水準 | 代償措置を設ける場合は金額・支払時期を本文に書く(報酬に含める場合はその内訳を明記) |
| 他の取引の相手方の取引条件と比べて差別的でないか | 同種の委託先に同じ条件を提示しているかを確認する |
| 通常のこれらの義務の内容や期間との乖離の状況 | 同業種の一般的な条件と比べて突出していないかを確認する |
加えて、一方的に押し付けたのか協議して決めたのかも見られています。ガイドラインが問題視しているのは「合理的に必要な範囲を超えて一方的に課し、受注者が受け入れざるを得ない」状況です。条件を提示する段階で理由と代償措置を説明し、受注者が交渉できる状態にしておくことが実務上の備えになります。
競業避止・専属義務を広く課すと、偽装請負の判断にも影響する
他の発注者の仕事を受けられない状態を契約で作ると、労働者性を補強する要素として働きます。上記ガイドラインは、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)の判断基準を引いて、「他の発注者等の業務を行うことが制度上制約されたり、時間的な余裕がなく事実上困難であるような場合」には専属性の程度が高く、労働基準法における『労働者性』を補強する要素となると整理しています。
本ページの「偽装請負のリスクと労働者性の判定基準」で挙げた指揮命令・時間拘束・場所拘束に、広範な競業避止や専属義務が重なると、実態が雇用と評価される方向に働きます。受注者を囲い込むために競業避止を広げるほど、業務委託として組んだはずの契約が雇用と判断されるリスクが上がるという関係にあります。範囲を絞ることは、受注者の保護であると同時に発注者側のリスク管理でもあります。
中途解約条項・報酬支払条件の設計
中途解約条項の設計ポイント
業務委託契約の途中解除については、民法の任意規定と契約条項の双方が影響します。以下の点を契約書で明確にしてください。
- 解除予告期間: フリーランス新法では6ヶ月以上の継続契約を解除する場合は30日前通知義務(16条)。それ未満の契約でも通常30日前通知が慣行です
- 損害賠償の上限: 一般的には「委託報酬の〇ヶ月分」等で上限を設定します(上限がない場合、受注者側に過大な賠償義務が生じる可能性)
- 完了済み業務の精算: 途中解除時に既に完了した部分の報酬は按分精算する旨を明記
- 帰責事由による違い: 委託者側の一方的解除と、受注者の債務不履行による解除では扱いを区別
報酬支払条件の設計
- 締め日と支払日: 「毎月末日締め・翌月末日払い」等を明記(フリーランス新法4条: 役務提供日から60日以内)
- 遅延損害金: 法定利率(年3%・民法419条)または年14.6%(取適法適用時)を記載
- 振込手数料の負担者: 実務慣行は委託者負担・受注者負担に分かれるため明記必須
- 請求書の締切: 「毎月〇日までに請求書を提出」等の手続きを定める
- 消費税の取扱い: 報酬額に消費税が含まれているか(内税)、別途加算するか(外税)を明記
印紙税の取扱い(業務委託契約書の課税判定)
業務委託契約書の印紙税は、契約が「請負」か「委任(準委任)」かによって異なります。 国税庁 印紙税額一覧表 で確認できます。
| 契約の性質 | 文書番号 | 印紙税額 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 請負契約(成果物完成型) | 2号文書 | 200円〜60万円(報酬額に応じて) | Webサイト制作・システム開発等 |
| 準委任・委任(継続的基本契約) | 7号文書 | 4,000円 | SES・コンサル・運用保守等(継続3ヶ月超) |
| 準委任・委任(単発) | 非課税 | 0円 | スポット業務・単発顧問等 |
| 電子契約 | 非課税 | 0円 | 電子データに印紙税法は適用されない |
請負型の業務委託契約を紙で締結すると、報酬額1,000万円超の場合は1通あたり2万円の印紙税が必要です。電子契約に切り替えるだけで年間の印紙税コストをゼロにできます。
電子契約による締結(印紙税ゼロ・電子署名法対応)
業務委託契約書は 電子契約サービスで締結すると、印紙税ゼロ・郵送コストゼロ・締結時間5分で完了できます。代表的なサービス: クラウドサイン(業界シェア No.1)、GMOサイン、freeeサイン。
- 電子署名法への適合: 電子署名法に基づく認定認証業務を利用したサービスは法的証拠力が高い
- タイムスタンプ付与: 契約締結日時を第三者機関が証明するため改ざん防止効果あり
- 電帳法対応: 2024年1月以降、電子取引データは電子のまま保存義務(紙への印刷保存は原則不可)
- フリーランス新法の書面明示への活用: 電磁的方法による明示(メール・クラウドサービス)でも新法3条の義務を満たせます
電子契約サービスの詳細比較は → 電子契約サービス比較2026年最新版 をご覧ください。
業種別の注意点(IT・コンサル・デザイン・建設・物流)
業種によって、業務委託契約書で特に注意すべき条項が異なります。標準テンプレートに加えて業種固有のリスクに対応した条項を追加してください。
| 業種 | 主な契約類型 | 追加すべき主な条項 | 法的リスク |
|---|---|---|---|
| IT・ソフトウェア | 請負(受託開発)/準委任(SES) | 仕様変更手続き(Change Request)・バグ修正期間・ソースコードの所有権 | 偽装請負(SES)・瑕疵担保無制限請求 |
| コンサル・顧問 | 準委任 | 成果物定義(レポート・提言書)・秘密保持強化・競業避止の範囲 | 成果不明確によるトラブル・競合への情報漏洩 |
| デザイン・クリエイティブ | 請負 | 著作権法27条・28条含む譲渡条項・著作者人格権不行使・修正回数制限 | 著作権無断利用・無限修正要求 |
| 建設・土木 | 請負 | 建設業法の一括下請禁止・施工体制台帳・安全衛生管理責任者 | 一括下請禁止違反・施工体制未整備 |
| 物流・配送 | 請負 | 荷物の紛失・破損に関する補償範囲・事故時の報告義務・車両の保険 | 事故時の無制限損害賠償・保険未加入リスク |
海外取引・準拠法・紛争解決管轄
海外のフリーランス・企業に業務を委託する場合、国内取引にはない法的リスクが生じます。以下の点を必ず契約書に明記してください。
- 準拠法: 「本契約は日本法に準拠する(This Agreement shall be governed by the laws of Japan)」と明記。準拠法がないと相手国の法律が適用される可能性があります
- 管轄裁判所: 「東京地方裁判所を第一審の合意管轄裁判所とする」等。外国の裁判所で訴訟を起こされると対応コストが膨大になります
- 仲裁条項: 「日本商事仲裁機構(JCAA)の仲裁規則に基づき仲裁する」等の選択肢もあります(仲裁判断は国際条約で相手国でも執行可能)
- 源泉徴収と租税条約: 外国人フリーランスへの支払いは租税条約による税率の減免が適用される場合があります。支払い前に税理士への確認を推奨します
- 消費税のリバースチャージ方式: 国外業者から日本国内で受ける役務提供(デジタルサービス等)は、受領者側が消費税を申告・納税する必要があります
- データの越境移転: 個人情報を含むデータを海外委託先に提供する場合、個人情報保護法の越境移転規制(24条)への対応が必要です
業界特化版もご利用ください
業界特有の法令・実務に対応した特化版テンプレートを用意しています。一般版と併用してください。
業種特化版には競業避止・勧誘禁止の条項が入っています(一般版には入っていません)
業種特化版のうち IT・介護・飲食の3つには、その業種で顧客・利用者の引き抜きを防ぐための条項が入っています。中身を確認しないまま相手に渡すと、その制限に合意したことになります。不要であれば、該当条を削除して使ってかまいません。各テンプレートの内容は次のとおりです(条番号・期間・範囲・対象は実物の条文どおりに記載しています)。
| テンプレート | 条番号 | 制限の内容(期間・範囲・対象) |
|---|---|---|
| IT業務委託契約書 | 第21条(競業避止/引抜き禁止) | 受注者は契約期間中および終了後1年間、発注者の主要顧客(在籍中の担当顧客)に競合する役務を直接提供しない(地域の限定なし)。あわせて双方が同じ期間、相手方の従業員・業務委託先を勧誘・引抜きしない。第20条(残存条項)で契約終了後も効力を持つと定めています |
| 介護業務委託契約書 | 第16条(禁止事項)第2項 | 受注者は契約期間中および終了後1年間、発注者の利用者を直接勧誘して独立して介護サービスを提供しない(地域の限定なし・対象は発注者の利用者に限定)。条文中に「競業避止」と明記されています |
| 飲食店業務委託契約書 | 第17条(競業避止) | 契約期間中および終了後1年間、店舗から半径5km以内の同業態店舗に従事しない。違反した場合は損害賠償の対象とする旨も定めています。上の2つと違い、特定の顧客ではなく地域と業態で制限する書き方なので、受注者が同じ地域で仕事を受ける機会をそのまま制限します。使う場合は範囲が実情に合うかを必ず確認してください |
| 医療業務委託契約書 | 第14条(兼業・利益相反) | 禁止ではありません。「受注者が他の医療機関で同種業務を行うことは妨げない」としたうえで、発注者の競合となる業務(同一商圏・同一専門分野)は事前に協議すると定めているだけです。期間の定めも退職後の制限もありません |
| 建設業務委託契約書 | — | 競業避止・勧誘禁止の条項は入っていません |
一般版(一般委託版・準委任版・請負版)には、競業避止条項は入っていません。入れるかどうかを検討する場合の判断材料は → 競業避止義務を入れる場合に気をつけること をご覧ください。範囲を広げる方向に書き換える場合は、弁護士への確認を推奨します。
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参考文献・出典
本ページの内容は以下の公的情報源に基づき作成しています(2026-05-28 確認時点)。